対象疾患
脳性麻痺
脳性麻痺(脳性小児麻痺)とは、妊娠期から2歳までの間に、様々な要因で脳が損傷し、体を動かす機能が障害された疾患です。独りで歩ける軽度の麻痺から、経管栄養や胃瘻が必要な重度の麻痺(医療的ケア児)まで幅が広く、脳の病変自体は非進行性ですが、側弯や変形などの症状は身体の成長と共に進行することが多いです。国内での有病率は出生1,000に対し2~2.5程度という報告が見られます。
主な症状
手足の筋肉が緊張して硬くなる、体が反り返るなどの特徴的な症状のほか、首すわりや寝返りなどができるようにならない、といった運動発達の遅れから気づかれる場合もあります。視覚障害(弱視や斜視)や聴覚障害(難聴)、感覚障害、発達障害(学習障害や自閉スペクトラム症など)、知的障害、言語障害、てんかんなどの症状を伴うことも多いです。
原因
出生前の要因が8割で、脳の形成異常、脳室周囲白質軟化症(PLV)、低酸素性虚血性脳症、髄膜炎や風疹などの感染症があげらます。その他、分娩時の酸素欠乏に起因するものや、乳児期のインフルエンザ脳症、頭部外傷、重篤なてんかんなどによっても起こります。中には原因が全く分からないケースもあります。
なお、分娩時に起因して発症した重度脳性麻痺に関しては、「産科医療補償制度」の対象となります。
1.痙直型(けいちょく)
脳性麻痺の70~80%がこの痙直型で、錐体路と呼ばれる中枢神経系の上位運動ニューロンの損傷に起因します。筋肉が異常緊張していてガチガチに硬い(痙縮)、体が反り返る、こわばって両手足がつっぱる、脚をクロスしながら歩く「はさみ脚」、かかとのつかないつま先歩き「尖足(せんそく)」などの特徴的な運動パターンが見られます。片麻痺(半身のみ)、両麻痺(両脚)、四肢麻痺などがあります。
2.アテトーゼ型
脳性麻痺の10~20%程度を占めると言われており、筋肉の緊張具合や動作を微調整している大脳基底核などが損傷したことで、意図せず身体が勝手に動いたりよじれたりします(不随意運動)。筋肉の緊張が変動して安定しないため、姿勢をうまく保つのが困難です。正しく発音できない構音障害を伴うことも多いです。
3.運動失調型(弛緩型)
脳性麻痺の~5%程度は運動失調型で、小脳などの損傷により体を協調して動かすのが困難です。体の震えやバランスの悪さが特徴的で、筋肉が低緊張でゆるゆるに弛緩していることも多いです。
その他、痙直型とアテトーゼ型が複合したような、混合型の脳性麻痺も多く見られます。
PVL(脳室周囲白質軟化症)
PLV(脳室周囲白質軟化症)は、脳室周囲の白質(運動神経の集まる部分)が損傷したことで、運動障害を引き起こす疾患です。脳性麻痺の原因の一つで、当院の患者さんの中で最も多い疾患です。未熟な状態で生まれてくる早産児(在胎32週以下)や低出生体重児(2,500g未満)に見られやすく、NICUからの退院時や1歳頃までには超音波検査やMRIの画像によって診断されます。
主な症状
脳室の近くに足の運動を司る領域があるため、特に足の痙性麻痺が出やすく、足の筋肉が突っ張る、かかとがつかない尖足(せんそく)などが特徴的です。軽度であれば足関節が硬い程度で独りで歩け、重度になると四肢麻痺になることもあります。
原因
血流不足による低酸素が原因で、神経繊維が壊死してしまうことが原因ですが、それを招く要因などはまだ解明されていません。高齢出産の増加と周産期医療の発達により、増加傾向にあります。
てんかん
てんかんは、大脳の神経細胞が興奮し、一斉に過剰な放電がなされることで、勝手に筋肉が強く収縮する疾患です。てんかんから脳性麻痺に至るケースや脳性麻痺の合併症としててんかん発作が出る場合があります。大人のてんかんと異なり、小児のてんかんはコントロールが難しいのが特徴です(特に症候性全般てんかんの「ウエスト症候群(点頭てんかん)」や「レノックス・ガストー症候群」「ミオクロニー」)。
主な症状
痙攣(けいれん)や震え、意識を失うなどの発作を起こします。小さな発作を含めると1日100回以上も発作がある子も少なくありません。てんかんの発作は脳を激しく消耗させるため、脳の発達や学習にとって大きな妨げになり、運動や知能の発達に遅れが出ます。
原因
てんかんは、胎内や分娩時に大脳が損傷したことで起こる症候性てんかん(脳の病変が認められる)と、遺伝的なものが関係する特発性てんかん(原因不明)に大別されます。
てんかんの発作の80%は偶発的に起こりますが、20%は睡眠不足やストレス、光や天候、発熱など、様々な刺激や出来事が引き金となって起こる可能性があるため、発作の誘発因子にならないよう、注意することが大切です。
筋ジストロフィーなどの筋肉系の遺伝子疾患
遺伝子の問題(染色体異常)により、筋力が低下して衰えていく進行性の疾患を指します。筋ジストロフィーや脊髄性筋萎縮症(SMA)などの遺伝子疾患が挙げられます。国内の有病数は、筋ジストロフィーの場合、人口10万人あたり17~20人程度と見られています。日本では「福山型筋ジストロフィー」が、世界的には「デュシェンヌ型筋ジストロフィー」が多くなっています。
知能が高く感受性の強い子も多いため、自分の体に起きている現実を受け入れることに苦悩しやすく、繊細なコミュニケーションによる心のケアが大切になります。また、誤った施術やリハビリを行うと筋肉を痛めるおそれがあるため、十分注意が必要です。
主な症状
デュシェンヌ型筋ジストロフィーの場合、初めはつまづいたり転んだりしやすい程度ですが、小学生年代からどんどん筋力が弱まって痩せ細り、歩行困難になります。全身の筋力が弱まることで、嚥下や呼吸、心筋、胃腸機能の障害などが起こることもあります。また、二次障害として側弯や変形、関節の拘縮(可動域の制限)なども見られます。
原因
筋ジストロフィーは、筋肉に必要なタンパク質の設計図となる遺伝子の突然変異が原因で、正常な細胞の機能を維持できなくなり、筋肉の変性や壊死によって筋力低下や筋萎縮などがもたらされます。遺伝性のものと、突然変異によって新しく生じるものとあります。
ダウン症などの染色体異常
染色体異常とは、先天的な原因で染色体の数や形に問題のある疾患を指します。21番目の常染色体が1本多いダウン症(21トリソミー)をはじめ、18トリソミー(エドワード症候群)、13トリソミー(パトウ症候群)など、様々な種類があります。ダウン症の日本での出生率は約700~750分の1という報告があります。
妊婦検診の超音波検査や血液検査、羊水検査で異常が見つかったり、出生後の特徴的な外見や血液検査によって診断が行われます。疾患ごとに症状や平均寿命は異なります。
主な症状
ダウン症は顔つきが特徴的で、心臓の異常や甲状腺の機能低下を抱える子も多いです。知的障害や自閉傾向も強くなっています。また、筋肉の緊張が弱く円背になりやすかったり、首の関節が不安定で首が亜脱臼しやすかったりします。
原因
ダウン症の場合、卵子や精子を作る過程で異常が起き、21番目の染色体が1つ余分な卵子または精子ができることがあります。そして、それらが受精卵になると、受精卵は21番目の染色体が3個(トリソミー)になり、そのまま胎内で育つとダウン症の子になります。
ときどき「ダウン症は遺伝する」といった情報がありますが、約95%は両親の染色体には異常はなく、親から受け継いだものではないことがほとんどです。
発達障がい
発達障がいとは、脳の機能障害により発達の凸凹(デコボコ)が強かったり、発達に遅れが見られたりする疾患を指します。ASD(自閉症スペクトラム・アスペルガー症候群)、ADHD(注意欠如・多動症)、LD(学習障害)などの種類があり、脳の情報処理や認識の仕方が多くの人と異なる、という特徴があります。
1980年代後半から診断基準が普及し始め、著名人のカミングアウト報道なども相まって一気に社会的認知度が高まりました。こうした背景から「発達障がい」と診断される人が急増していましたが、近年の診断基準の厳格化により、発達障がいの傾向はあるものの診断名のつかない「グレーゾーン」で悩む人も増えています。
日本では、小中学生の6.5%が「発達障がいの可能性がある」、4.5%が「学習に著しい困難を抱えている」と報告されていますが、米国では1.5%がASD、11%がADHDという統計があります。
主な症状
環境の変化に適用するのが苦手で、自閉傾向があるという共通した特徴はあるものの、その程度やその他の症状などは個人差がとても大きいです。
また、こだわりが強い、じっとしていられないなどの発達障がい特有の気質以外にも、身体的な症状が見られるケースが多いです。筋肉の緊張が弱く姿勢を保てない、足の筋肉に左右差があるなどしてうまく体を動かせない、転びやすい、触覚や聴覚などの感覚が過敏、てんかんや不眠症がある…などがあります。こうした症状の改善が、落ち着きや集中力の改善に繋がることも多々あります。
原因
親のしつけや子育ての仕方、親子の努力の問題ではなく、遺伝的な要因や環境的な要因が深く関わっていることが分かっていますが、まだ明確に解明されていません。ただし、自閉症児はオキシトシンとセロトニンが不足している、糖分が多動を誘発させる、などの対策の糸口は見つかってきています。